レンタカーで農道を走っていたら、道の真ん中を大きな鳥が悠々と横切っていった——石垣島でよくある光景です。首は青く光り、長い羽を引きずるように歩くその鳥は、動物園でしか見たことがない人も多いはずのクジャクです。「なぜ南の島に?」「野生なの?」と、ハンドルを握りながら首をかしげた方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、石垣島のクジャクは在来の野鳥ではありません。南アジア原産のインドクジャクが人の手で持ち込まれ、飼育施設から逃げ出して野生化したものです。国は緊急対策外来種、沖縄県は重点対策種に位置づけていて、石垣市は令和6年度から令和8年度にかけて毎年1,000羽の捕獲を計画しています。つまり、旅先で出会う美しい鳥は、島にとっては対策の対象なのです。
この記事では、石垣島のクジャクがどこに多いのか、どの時間帯に見かけやすいのか、そしてレンタカーで走るときに何に気をつければいいのかを、沖縄県の防除計画や石垣市の公表資料といった一次情報の数字で整理します。見つけたときにやってはいけないことも合わせて確認しておきましょう。
・石垣島のクジャクは野生化したインドクジャク。国の緊急対策外来種で、島では駆除の対象
・出会いやすいのは朝と夕方。昼間は木陰、夜は木の上で休むため日中は見つけにくい
・被害の回答が多いのは新川・名蔵・石垣・川平・崎枝といった農地の周辺
・運転中は飛ぶより歩いて横断する鳥として身構えるのが、事故を避ける近道
石垣島のクジャクは在来の野鳥ではない|島に定着した一羽の正体

正体は南アジア原産のインドクジャク
石垣島で見かけるクジャクは、学名 Pavo cristatus、キジ目キジ科のインドクジャクです。原産地はインド、スリランカ、パキスタン、バングラデシュなどで、もともと日本には生息していません。同じキジの仲間にはヤマドリやニワトリがいて、長距離を飛ぶことが少なく、主に歩いて活動するという共通点があります。渡りをせず定着性が強いため、一度住み着いた場所からあまり動かないのも特徴です。
食性はかなり幅広く、穀物、果実、草や葉、昆虫、陸生貝類のほか、小型の両生類や爬虫類、哺乳類まで食べます。沖縄県の防除計画では、黒島・新城島・石垣島で胃の内容物が調べられ、主に植物質を食べつつ、昆虫類・クモ類・貝類、さらに爬虫類も捕食することが確認されたと報告されています。「何でも食べられる」ことが、島で数を増やせた大きな理由です。
ドライブ中に見分けたいなら、まず歩き方を覚えておくと便利です。車が近づいてもすぐには飛び立たず、道路を斜めに横切るように歩いて渡っていきます。カラスやサギのように翼で回避してくれる鳥ではない、と理解しておくと運転の身構え方が変わります。
1970年頃の新城島から八重山じゅうに広がった
石垣島にクジャクがいる理由は、たった一つの飼育施設から始まっています。沖縄県の資料によれば、1970年頃に新城島の観光施設で飼育目的に持ち込まれたのが最初で、1979年には小浜島のリゾートにも持ち込まれ、そこから観賞用として各地へ寄贈されました。その後、台風で飼育小屋が壊れて数羽が脱走し、そのまま野生化したという流れです。
定着できた要因は三つあると整理されています。八重山諸島の気候が原産地と同じく温暖であること、島に天敵がいないこと、そして雑食性で多様なものを餌にできること。この三つがそろったため、逃げ出した数羽が数百羽、数千羽の規模にまで増えました。現在、沖縄県が生息を確認しているのは宮古島、伊良部島、石垣島、小浜島、黒島、新城島、与那国島の7島です。
旅行者として押さえておきたいのは、「石垣島だけの話ではない」という点です。八重山の離島をはしごする旅程なら、黒島でも小浜島でも同じ鳥に出会う可能性があります。逆に、西表島では定着が確認されておらず、県はそこへの侵入防止を防除の最大目標に掲げています。
オスとメスで見た目がまるで違う
「クジャク=あの派手な羽」というイメージは、実はオスの、しかも繁殖期に限った姿です。沖縄県の防除計画によると、オスは全長180〜230cmで、頭は金属光沢のある青色、扇状の青い冠羽を持ちます。あの長い飾り羽は尾ではなく上尾筒と呼ばれる部分で、120cm以上に達し、赤銅色の縁に青い中心を持つ目玉模様が並びます。
一方のメスは全長90〜100cmで、全体的に茶色っぽく、飾り羽はありません。そのため、車から見て「地味な茶色い大きめの鳥が数羽で歩いている」場合、それはメスとヒナの群れである可能性が高いということになります。オスは3年、メスは2年で成熟し、寿命は20〜30年と長く、産卵期は春で一腹卵数は6〜8個です。
この数字を頭に入れておくと、道路上での動きも読みやすくなります。1羽が横断したら、後ろに数羽が続くと考えるのが安全です。特に春から初夏はメスがヒナを連れて歩くため、先頭の1羽をやり過ごしてすぐ加速するのは危険な運転になります。
実は、出会っても「ラッキー」とは限らない
意外と知られていないのですが、石垣島のクジャクは観光資源として扱われていません。国の「生態系被害防止外来種リスト」では緊急対策外来種、沖縄県の対策外来種リストでは重点対策種に指定されていて、位置づけとしては「積極的な防除が急がれるもの」です。石垣市の鳥獣被害防止計画でも、イノシシやハシブトガラスと並ぶ有害鳥獣として名前が挙がっています。
それでも、旅行者が出会ってしまう機会は少なくありません。大切なのは、珍しい鳥として追いかけるのではなく、島の生態系の課題を体現している存在として距離を保つことです。餌を与えたり車を降りて近づいたりすることは、島の対策を邪魔する行為になりかねません。
クジャク目当てにわざわざ時間を割く必要はありません。石垣島の一般的なドライブコース(市街地から西回りで名蔵・崎枝・川平へ)を朝か夕方に走れば、道中で見かける可能性は十分にあります。「見に行く」のではなく「移動のついでに出会う」と考えるのが、この島でのちょうどいい距離感です。
どこで会える?被害の集中地区から読み解く居場所
森林公園ならバンナ公園の各ゾーン
まとまった数を見かける場所として名前が挙がりやすいのが、市街地の北に広がる県営バンナ公園です。地元紙の鳥類コラムでも、公園の東西南北の各ゾーンでインドクジャクがゆったり歩いている様子が紹介されています。標高230メートルのバンナ岳一帯に広がる計画面積292.1ヘクタールの広域公園で、亜熱帯の森がそのまま残っているため、森林と草地を好むクジャクの生息環境と重なります。
公園自体は入園そのものに手続きが要らず、南ぬ島石垣空港から公園北口まで車で15分、離島ターミナルから公園南口まで車で15分という位置関係です。空港到着後にレンタカーを借りて市街地へ向かう途中、あるいは最終日に空港へ戻る前の空き時間に立ち寄りやすい場所にあります。ゲートは21:00に閉鎖されるので、夕方に入るなら戻りの時間だけ気をつけてください。
園内は複数のゾーンに分かれていて、それぞれに駐車スペースがあります。展望台方面、渡り鳥観察エリア、子供と広場ゾーンなど目的地によって入る口が変わるため、カーナビは「バンナ公園」だけでなく行きたいゾーン名まで入れておくと迷いません。
| 住所 | 〒907-0004 沖縄県石垣市登野城2241-1 |
| 電話番号 | 0980-82-6993 |
| 営業時間 | ゲート閉鎖21:00 |
| 定休日 | 12月28日〜1月4日(世界の昆虫館は木曜定休) |
| アクセス | 南ぬ島石垣空港から車で15分(公園北口)、離島ターミナルから車で15分(公園南口) |
| 公式サイト | 公式サイト |
※開園・休園の情報は2026年8月時点のものです。台風接近時は暴風警報の発令前に閉園することがあります。
名蔵から崎枝・川平へ抜ける農地帯
石垣市が令和4年7月にまとめた「石垣島における有害鳥獣による被害調査業務報告書」には、集落ごとのインドクジャク被害の回答件数が載っています。直近1年の被害で回答が多かったのは新川15件、名蔵14件、石垣9件、川平9件、崎枝8件、登野城7件。畑や休水田、畜舎の周辺に集まるという県の記述とも一致します。
このうち名蔵・崎枝・川平は、市街地から県道を西回りに走って川平湾へ向かうときにそのまま通過する区間です。つまり、石垣島の定番ドライブコースは、そのままクジャクの生息密度が高い地域を横断するルートでもあります。防風林と畑が交互に現れる区間では、路肩の草地から歩いて出てくる個体に備えておきましょう。
名蔵川の河口部に広がる名蔵アンパルは、2005年11月8日にラムサール条約に登録された157ヘクタールの湿地です。国指定鳥獣保護区の特別保護地区でもあり、カンムリワシなどの森林性鳥類も生息しています。クジャクを探す場所というより、周辺の農地と森が重なるエリアの目印として覚えておくと位置関係がつかみやすくなります。

市街地でも新川・登野城で回答が出ている
意外なのは、市街地に近い新川と登野城でも被害の回答が出ていることです。新川は15件で全集落の中で最多、登野城も7件あります。「山奥まで行かないと会えない鳥」ではなく、市街地の外縁部の畑や空き地にも入り込んでいるということです。
ただし、これはあくまで農作物被害を受けた農家からの回答件数であり、そのまま「観光客が見かけやすい場所ランキング」ではありません。回答件数が多い集落は農地が多い集落でもあるため、数字は「畑のある場所にクジャクがいる」ことを示していると読むのが正確です。
市街地に泊まっている場合、朝食前に少しだけ郊外へ出るだけでも遭遇の可能性はあります。バスで移動する旅程の人は、空港線や川平方面のバスの車窓からでも農地帯を通過するので、窓側の席を確保しておくと観察のチャンスが増えます。
| 集落 | 直近1年の被害回答件数 | 島内での位置 |
|---|---|---|
| 新川 | 15件 | 市街地の西側 |
| 名蔵 | 14件 | 西海岸・名蔵湾沿い |
| 石垣 | 9件 | 市街地の北側 |
| 川平 | 9件 | 島北西部 |
| 崎枝 | 8件 | 西部・屋良部半島 |
| 登野城 | 7件 | 市街地 |
出典:石垣市「石垣島における有害鳥獣による被害調査業務報告書」(令和4年7月)をもとに石垣島旅の教科書が作成。有効配布数1,131件のアンケートで、インドクジャクの被害回答は直近1年で193件でした。
探し回っても会えない日は普通にある
ここまで場所を挙げてきましたが、クジャクは昼間になると木陰に入ってしまうため、日中に車で流しても見つからない日は珍しくありません。県の資料でも、朝と夕方は見晴らしの良いところに出てくる一方、昼間は木陰に多く、夜は木の上で休むと整理されています。
旅程を組むときは、クジャクのために半日を空けるのではなく、朝の移動や夕方の帰り道に「いたら見る」という組み方が現実的です。ビーチや川平湾の観光を優先し、その行き帰りの農道でスピードを落とすだけで、遭遇率は上がります。
被害回答が多い集落=農地が多い集落です。新川・名蔵・石垣・川平・崎枝・登野城はいずれも定番ドライブルートの沿道にあります。わざわざ探しに行くのではなく、いつものコースを朝夕にゆっくり走るのが遭遇への近道です。
朝と夕方が勝負|見かけやすい時間帯と季節の目安

一日の行動パターンを知っておく
結論として、狙うべきは朝と夕方です。黒島研究所の解説によれば、インドクジャクは朝と夕方に見晴らしの良いところへ出てきて、昼間は木陰に多く、夜は木の上で寝ます。日中の炎天下に農道を流しても、木陰に入った個体は道路からは見えません。
この行動パターンは、実は石垣島のドライブ計画と相性がいいものです。ビーチや展望台は日中が本番ですが、朝の移動と夕方の帰り道はどうしても発生します。その時間帯にちょうど活動が活発になるので、特別な予定を追加しなくても遭遇の機会は生まれます。
同時に、この時間帯は運転リスクが最も高い時間帯でもあります。朝夕は逆光になりやすく、路面と鳥の見分けがつきにくくなります。「見つけやすい時間=ぶつけやすい時間」だと理解して、速度を落として走るのが前提になります。
飾り羽が見られるのは2月から7月
あの長い飾り羽を見たいなら、季節も重要です。黒島研究所の観察記録では、上尾筒の長いオスが見られるのは2〜7月、オスが羽を広げて求愛する姿が多いのは3〜6月とされています。卵が確認されるのは5〜8月、メスがヒナを連れて歩く様子が多く見られるのは6〜10月です。
裏を返せば、秋から冬にかけて訪れると、オスであっても飾り羽のない姿しか見られない可能性があります。「クジャクがいたのに地味だった」と感じるのは、季節のせいであることが多いのです。石垣島は冬でも過ごしやすい島ですが、羽を目当てにするなら春の旅程を選ぶことになります。
なお、繁殖期はクジャク側も敏感になる時期です。県は産卵期の4月〜6月に営巣卵の駆除を行っており、この時期は地上の草地に巣がある可能性があります。畑や草地に足を踏み入れないのは、いつでも守るべき基本です。
鳴き声のほうが先に気づく
視界に入る前に、声で気づくことのほうが多い鳥でもあります。黒島研究所は朝と夕方に「ニャオー、パオーン、ケッ」といった鳴き声が至る所で聞こえると記録しており、石垣島の地元紙も「ミャー」「ミュー」と聞こえる異様な声が島の森のあらゆる場所で聞こえると書いています。ネコの声に似ていると感じる人が多い声です。
車の窓を閉め切ってエアコンを効かせていると、この手がかりを丸ごと逃します。朝夕に農道を走るときは、少しだけ窓を開けてみてください。声が聞こえたら、その先の路肩や畑に目を配りながら速度を落とす、という順番が安全です。
写真を撮りたい人は、停車できる場所を先に決めておくのがコツです。石垣島の農道は路肩が狭く、防風林で見通しが悪い区間が続きます。ハザードを出して路上に停めるのではなく、駐車スペースのある公園や展望所まで移動してから、双眼鏡や望遠で探すほうが安全で結果的に見つかります。
レンタカーの飛び出し対策|飛ぶより歩いて横断する鳥
森林地帯と農道は徐行が前提
石垣島でハンドルを握るなら、野生動物の飛び出しは「起こりうること」として組み込んでおく必要があります。環境省沖縄奄美自然環境事務所は2022年3月10日に『カンムリワシ交通事故 非常事態宣言』を発出し、制限速度の遵守、野生生物の飛び出しへの配慮、特に森林地帯を通行する際の徐行運転を呼びかけました。宣言の背景には、2022年1月1日から3月6日までに石垣島で6件、西表島で2件の事故が起きたという事実があります。
石垣市の資料では、令和5年に石垣島でカンムリワシの交通事故が7件発生し6羽が死亡、令和6年は1月17日現在までの約2週間で3件が発生したと報告されています。呼びかけの対象はカンムリワシですが、徐行が必要な区間はクジャクが出てくる区間とほぼ重なります。森が道に迫る区間と、畑の間を抜ける農道の2種類を覚えておけば十分です。
速度の目安は、路肩から鳥が歩き出しても止まれる速度、つまり制限速度以下です。石垣島には高速道路がなく、一般道でも制限速度は控えめに設定されています。時間に余裕のない旅程を組まないことが、そのまま安全運転につながります。

石垣島の地図を開いて、「これ、車でどれくらいかかるんだろう」と手が止まっていませんか。島の形が細長くて、北の方に伸びた半島の先まで道が続いている。そこまで行ける…
失敗パターン1:驚いて急ブレーキを踏む
ありがちな失敗が、目の前にクジャクが出てきて反射的にフルブレーキを踏むケースです。原因は、クジャクを「飛んで避ける鳥」だと思っていることにあります。歩いて横断する鳥なので、直前まで避けてくれません。そして、驚いた瞬間の急制動は後続車への追突リスクを生みます。
対策はシンプルで、農道や森の区間に入った時点で速度を落とし、車間を広く取っておくことです。すでに減速していれば、フルブレーキではなく緩やかな減速で対応できます。後続車がぴったり付いている場合は、無理に急停止せず、可能な範囲での減速と、安全な場所での道譲りを優先してください。
もう一つ有効なのが、1羽見えたら「あと数羽いる」と想定することです。クジャクは小さな群れをつくって行動し、春から秋はメスがヒナを連れて歩きます。先頭が渡り切っても、すぐには加速しないほうが安全です。
それでも接触してしまったときの手順
万が一動物と接触した場合、まずは安全な場所に車を停めて、ハザードで後続車に知らせます。車両に損傷がある場合は、警察への連絡とレンタカー会社への連絡が基本です。物損事故の扱いになるかどうかは状況によりますが、報告せずに返却すると後からトラブルになります。
また、石垣島には国の特別天然記念物であるカンムリワシも生息しています。負傷・衰弱・死亡した個体を見つけた場合の連絡先は石垣市教育委員会文化財・市史編集課と環境省石垣自然保護官事務所で、詳細は石垣市の公式ページに掲載されています。クジャクとカンムリワシは大きさも姿も違いますが、どちらも路上に降りることがある鳥だと覚えておきましょう。
夜と早朝は速度をさらに落とす
クジャクは夜になると木の上で休むため、深夜の路上で出会う可能性は下がります。ただし、日の出前後の時間帯はねぐらから降りてくる時間と重なるため、早朝の運転はむしろ注意が必要です。県の捕獲作業も、ねぐらから動き出す夜間から日の出以降にかけて行われています。
石垣島は街灯の少ない区間が長く、市街地を離れると路肩の様子がヘッドライトの範囲でしか分かりません。早朝の便に乗るために空港へ向かう日や、日の出を見に行く日は、いつもより10分早く出て速度を落とす。この単純な段取りが、事故を避ける一番確実な方法です。
台風接近時は道路への倒木や冠水が発生し、フェリーも欠航します。野生生物の飛び出しに加えて路面状況も変わるため、走り出す前に最新の運航状況・気象情報を公式でご確認ください。バンナ公園のように暴風警報の発令前に閉園する施設もあります。
年1,000羽の捕獲計画|石垣島のクジャク対策を数字で見る

捕獲実績737羽、計画は年1,000羽
石垣島でどれだけのクジャクが捕獲されているのか、公表資料に数字が出ています。石垣市鳥獣被害防止計画(令和6年度〜令和8年度)によると、令和4年度のインドクジャクの捕獲実績は737羽。これを受けて、令和6年度から令和8年度は各年度で成体1,000羽、卵250個という捕獲計画数が設定されています。
沖縄県の防除計画では、石垣島では平成23年度以降、毎年300〜400羽が捕獲されてきたと記載されており、平成29年度には613羽でした。年を追うごとに捕獲数が増えているのは、対策が強化された面と、生息数そのものが減っていない面の両方を示しています。捕獲時期は通年で、手段は銃器・捕獲箱・卵の採取です。
旅行者から見れば「そんなに獲っているのに、まだ道で会うのか」という感覚になるはずです。それがこの問題の難しさで、県の資料も「密度が低くなると捕獲できなくなる」という捕獲効率の壁を課題として挙げています。
農作物被害は462,827円という現実
石垣市の鳥獣被害防止計画には、インドクジャクによる農作物被害の現状値も記載されています。被害金額は462,827円、被害面積は17.05アール。内訳は野菜類が455,417円、水稲が7,410円です。市は計画の最終年度に被害金額・被害面積とも20%減らすことを目標にしています。
計画の記述では、インドクジャクは石垣市全域で被害が増加傾向にあり、休水田や畜舎付近で多数目撃され、水稲や家畜飼料に被害が出ているとされています。露地作物である水稲やカボチャの被害が顕著という指摘もあり、「畑のそばにいる」という観察と行政の把握は一致しています。
この金額は、被害の全体像ではなく、計画に記載された現状値です。同じ石垣市の被害調査報告書では、アンケートに答えた農家1,131件のうち193件がインドクジャクの被害を挙げており、数字の取り方によって規模の見え方は変わります。いずれにしても、旅行者にとっては「きれいな鳥」でも、農家にとっては生活に関わる問題だという点は共通しています。
どうやって捕まえているのか
捕獲方法も公表されています。県の防除計画によれば、当初は新城島や小浜島で箱わなや銃器を用いた捕獲が行われましたが、密度が下がったり同じ手法を繰り返したりすると捕獲できなくなるという問題がありました。そこで確立されたのが、ねぐらを探して捕らえる方法です。
具体的には、夜間に熱探知カメラでねぐらを確認したうえで、夜間から日の出までは釣竿の先にワイヤー製のくくり紐を付けた捕獲棒を使い、日の出以降は空気銃を用います。加えて、産卵期の4月〜6月には訓練された探索犬が営巣箇所を見つけ、卵を回収する取り組みも行われています。繁殖そのものを抑える発想です。
石垣市の場合、駆除は八重山猟友会の協力を得た駆除班や有害鳥獣対策実施隊が担っています。農作物被害の相談窓口は石垣市農林水産部の有害鳥獣駆除のページにまとめられています。旅行者が直接関わる場面はありませんが、「島の人が手間と費用をかけて対応している」という背景は知っておく価値があります。
最終目標は西表島への拡散防止
沖縄県の防除計画が掲げる目標は、根絶ではなく「拡散の防止」です。具体的には、西表島へのインドクジャクの侵入防止と、すでに定着した地域での生態系被害の低減。西表島は環境保全上の重要度が高い島であるため、そこへ渡らせないことが最優先とされています。
黒島研究所の解説では、インドクジャクはかなりの距離を飛べるものの、各島を移動してはいないようだと記されています。つまり、島から島へ広がる主な経路は人の手による持ち込みです。だからこそ「捕まえない・持ち出さない」という旅行者側のルールが、対策の一部として意味を持ちます。
| 島 | 公表されている捕獲数 | 島の面積 |
|---|---|---|
| 石垣島 | 令和4年度に737羽 平成29年度は613羽 |
222.24平方キロメートル |
| 黒島 | 平成23〜25年度に2,218羽 平成26〜29年度に420羽 |
10.02平方キロメートル |
| 小浜島 | 平成23〜25年度に261羽 平成26〜29年度に329羽 |
7.86平方キロメートル |
| 新城島 | 平成18年度からの累計で180羽 | 1.76平方キロメートル |
| 宮古島 | 令和5年度に成体936羽 雛75羽・卵99個 |
— |
出典:沖縄県「インドクジャク防除計画」、石垣市鳥獣被害防止計画、宮古島市の公表資料をもとに石垣島旅の教科書が作成(2026年8月時点)。集計年度が島ごとに異なるため、単純な多寡の比較はできません。
見かけたときにやってはいけない3つのこと
追いかけない・餌をやらない
まず、追いかけないこと。クジャクは人に慣れているように見えても野生化した個体で、繁殖期のオスは羽を広げて自分の存在を誇示します。黒島研究所の解説では、羽を広げるのは求愛のときだけでなく、オス同士やほかの鳥に対しても行われる誇示行動だと説明されています。近づけば近づくほど、こちらが刺激になります。
餌をやらないことも重要です。雑食性で何でも食べる鳥に人が餌を与えれば、その場所に居着き、繁殖の条件が良くなります。県が「定着地域で低密度化することを最優先に取り組む」と掲げている以上、餌付けはその努力を打ち消す行為になります。
撮影も距離を保って行いましょう。望遠やスマートフォンのズームで十分な大きさに写ります。畑や牧草地は私有地であることが多く、無断で立ち入れば別の問題になります。道路から、車の中から、が基本です。
捕まえない|無許可の捕獲は法律違反
「外来種なら捕まえてもいいのでは」と考える人がいますが、これは誤りです。環境省の解説にあるとおり、鳥獣の捕獲は環境大臣または都道府県知事の許可を得るか、狩猟者登録を受けて行う場合を除いて原則禁止で、違反すると1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。インドクジャクも例外ではありません。
島で行われている駆除は、市が許可証を発行し、有害鳥獣対策実施隊や猟友会が担う仕組みのなかで実施されています。旅行者が手を出せる領域ではありません。ヒナや卵を「保護のつもり」で持ち帰るのも同じく捕獲にあたります。
あわせて、石垣市には自然環境保全条例があり、希少野生動植物103種類(動物20種・植物83種)の捕獲・殺傷または採取・損傷が禁止されています。違反した場合は30万円以下の罰金です。石垣島では「見つけた生きものに手を出さない」が全般的な原則だと考えてください。
失敗パターン2:車を降りて撮影に夢中になる
もう一つの典型的な失敗が、道路上でクジャクを見つけて路肩に車を寄せ、降りて撮影を始めてしまうケースです。原因は、島の道が空いていて「一瞬なら大丈夫」と感じてしまうことにあります。ところが石垣島の県道は防風林で見通しが悪い区間が多く、路肩も狭く、停まった車が死角になります。
対策は、撮影のために停まるなら駐車場のある場所まで移動する、という一点です。バンナ公園のように各ゾーンに駐車スペースがある施設なら、車を降りても安全ですし、園内は森が近いぶん出会える可能性も高い。「道路上で降りない」と決めておけば迷いません。
また、車を降りて追いかけると、クジャクは畑や草地へ逃げ込みます。私有地へ立ち入ってしまえばトラブルになりますし、繁殖期なら巣を踏む可能性もあります。撮れなかった一枚より、踏み込まなかった判断のほうが価値があります。
被害や目撃を相談したいときの窓口
滞在中に農作物被害の現場を見かけたり、対応に困る場面に出くわしたりした場合、石垣市の窓口は農林水産部の農政経済課です。連絡先や届出の流れは石垣市の有害鳥獣駆除のページに掲載されています。旅行者が通報を求められる場面は多くありませんが、宿や農家の方から相談されたときに案内先を知っていると役に立ちます。
島によって違うクジャク事情|黒島・小浜島・新城島・宮古島
黒島:日常的にクジャクが見られる島
石垣港離島ターミナルから高速船で約30分の黒島は、クジャクの生息状況を知るうえで分かりやすい島です。黒島研究所の解説によると、島には1980年代に観賞用として持ち込まれ、台風で飼育小屋が壊れて数羽が脱走。2000年頃から多く見られるようになり、現在では普通に観察できる状態です。
影響も具体的に記録されています。黒島ではトカゲ類が激減し、かつてごく普通に見られたサキシマカナヘビは年間に数回しか確認されないほどになりました。牛の飼料が食べられて栄養バランスが崩れるという畜産被害も報告されています。人口より牛の数が多い島ならではの被害です。
島の生きものについて学べるのが黒島研究所です。1975年設立の海洋生物の研究所で、常設の展示室では黒島に住む動物や民具を展示しています。港から徒歩30分、自転車なら15分。日帰りでレンタサイクルを借りるなら、無理なく組み込める距離です。
| 住所 | 〒907-1311 沖縄県八重山郡竹富町黒島136 |
| 電話番号 | 0980-85-4341 |
| 営業時間 | 9:00〜17:00 |
| 定休日 | 年中無休 |
| アクセス | 石垣港離島ターミナルから高速船で約30分の黒島港下船、黒島港から徒歩30分・自転車15分 |
| 公式サイト | 公式サイト |
※入館料・開館時間は2026年8月時点のものです。研究活動や島の行事で臨時に閉まることがあります。

石垣島から黒島へ行きたいのに、「船はどこから出るのか」「1日に何便あるのか」「島に着いたら何で移動するのか」がまとまって出てこない——黒島の行き方を調べ始めると…
小浜島と新城島:対策の最前線
小浜島は、八重山でクジャクが広がる起点のひとつになった島です。1979年にリゾートへ持ち込まれた個体が各地へ寄贈され、そこから島々に広がりました。捕獲数は平成23〜25年度の3年間で261羽、平成26〜29年度の4年間で329羽と記録されています。島の面積は7.86平方キロメートルですから、面積あたりの密度はかなり高い水準です。
面積1.76平方キロメートルの新城島では、平成18年度から環境省が防除を開始し、累計で180羽が捕獲されています。最初の3年間で約9割を捕獲し、現在は数羽以下まで減らしたうえで、熱感知カメラやドローンを使った調査で残りの個体を追っている段階です。小さな島だからこそ、根絶に最も近づいている例と言えます。
旅行者が訪れやすいのは小浜島のほうです。石垣島から高速船で渡れる距離にあり、レンタサイクルやレンタカーで島内を回ります。坂の多い島なので、クジャクを探すというより、走行中に見かける可能性がある鳥として頭に入れておくくらいがちょうどいい距離感です。
宮古島:令和5年度だけで成体936羽
八重山を離れて宮古島でも状況は同じです。宮古島市が公表している捕獲件数によれば、令和5年度の捕獲は成体936羽、雛75羽、卵99個。平成19年度から令和5年度までの累計では成体5,459羽、雛119羽、卵328個にのぼります。市は「雑食性で宮古固有の生物を捕食し、宮古独自の生態系の脅威となっている」と説明しています。
石垣島と宮古島をまとめて回る旅程を組む人は、どちらの島でも同じ鳥に出会う可能性があると考えてください。レンタカー移動が中心になる島同士なので、飛び出しへの構え方も共通です。
旅のスタイル別・クジャクとの距離の取り方
レンタカー中心で回る人は、朝夕の農道で速度を落とすだけで遭遇の機会が生まれます。撮影したくなったら駐車場のある場所まで移動する、という一点だけ決めておけば十分です。
バス・徒歩中心で回る人は、車窓からの観察が主役になります。空港線や川平方面の路線は農地帯を通るので、進行方向左右のどちらに畑が広がるかを地図で確認して席を選ぶと観察しやすくなります。
離島めぐりが中心の人は、黒島や小浜島の島内移動中がチャンスです。ただし、船の最終便から逆算した時間管理が最優先で、鳥を探して時間を使うと乗り遅れます。時刻表の確認を先に済ませてから、余った時間で周囲を見るという順番を守ってください。
朝いちばんか夕方に、市街地から西回りの農道へ車を向ける
窓を少し開け、鳴き声が聞こえたら速度を落として路肩と畑を見る
撮影は駐車場のある公園や展望所まで移動してから。道路上では降りない
まとめ|石垣島のクジャクとの正しい付き合い方
石垣島のクジャクは、1970年頃に持ち込まれた数羽が台風をきっかけに逃げ出し、天敵のいない島で増えていった鳥です。国は緊急対策外来種、沖縄県は重点対策種と位置づけ、石垣市は令和6年度から令和8年度にかけて毎年1,000羽の捕獲を計画しています。旅行者にとっては珍しい光景でも、島にとっては農作物被害と生態系への影響が続いている問題です。出会いやすいのは朝と夕方で、被害の回答が多いのは新川・名蔵・石垣・川平・崎枝・登野城といった農地を抱える集落です。いずれも市街地から西回りで川平湾へ向かう定番ドライブコースの沿道にあたるため、特別な寄り道をしなくても遭遇の機会は生まれます。一方で、飛んで避けてくれない鳥である以上、速度を落としていない車にとっては急ブレーキの原因にもなります。最初の一歩としては、レンタカーを借りた日の朝と夕方だけ、農道での速度を一段落とすことから始めてみてください。それだけで、出会える確率は上がり、ぶつける確率は下がります。
本記事の捕獲数・被害額・開館時間などは2026年8月時点で公表されていた資料に基づくものです。最新情報は各公式サイトでご確認ください。

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